頭痛

 冷たい空気、冷たい日差し。秋の早朝の匂いはハッカみたいに清潔で、身体の中でずきずきと熱を持つ感情が、かえってその存在感を増す。朝が来て何もかもリセットされればいいのに、と私は考える。けれど時間はどうしようもなく連続だ。私は七時間前の延長線上に立っているし、そこから逃れることはできない。
 頭痛。
 思い出すのは昨晩の言葉に言葉の応酬だ。心情の発露はとがった電気になって、光の速さで彼女に刺さった。同じように私も傷つけられ、そして夜は更けた。今朝冷たい水で顔を洗った。けれど散々に泣き腫らした顔は完全には癒えない。吐き出した言葉も、もはや手元には戻ってこない。私は曲がり角を曲がる。街路樹の落ち葉を踏みつける。パン屋の横を通りすぎる(こうばしい匂い)。そうして、いつもの歩道橋のふもとでサツキに会った。さわやかな朝に似合わないその寝不足顔を見て、私は息のつまる思いをする。
「おはよ」
 サツキはぎこちない笑顔を作る。私も同じやり方で笑う。「おはよう」
 お互いが、この恋の不毛さに気がつかない振りをする。けんかと仲直りを飽きるほど積み重ねて、私たちは一体どこに辿りつけるというのだろう。

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