日焼けあと。
 薄皮をぽりぽりめくりながら、このまま、私のすべてを脱皮するみたいに捨て去れたら、と考えた。外ではセミがやけにうるさいの。陽のひかり。くもりガラスでちらりと撥ねて、あかりをつけないけど室内は明るい。
 そろそろお昼にしようかねぇ。
 思い切って、口にも出してみる。
「そろそろ、お昼に、しようかねぇ」
 私は立ち上がる。暑いしめんどうだし、素麺でいいか。応える人は誰もいない。少し前までは、そうしてくれる人が確かにいたような気がするのだけど。この頃の私には時間の感覚があんまりない。時計を見れば午後三時。今日は何日の何曜日だ? まあいいや。学生の夏休みは長いのだ。
 鍋に水を注ぐ。火にかける。今のうちにタイマーを一分半にセット。素麺を二束取り出して、両手に一束ずつ持って、舞でも踊っているうちにお湯が沸いた。りさ。私はその名前を鍋にぶちこむ。素麺もぶちこむ。タイマーのスタートボタン。ぶくぶく泡立つ水面。素麺は花咲くみたいにぱっと広がって、根本の方から次第にふやけて、花が腐り落ちるみたいに、やがて形をくずしていく。
 麦茶をグラスに注いで飲んだ。しばし物思いのようなものにふけっていると、けたたましい電子音が私を素麺に引き戻す。ざるに落として、蛇口の水でかきまぜながら冷やす。そうして器に盛って、つけつゆを用意しておしまい。テレビをつけると好きなドラマの再放送がやっていた。それを片目にそうめんをずるずるとやって、それからちょっとだけ泣いた。ドラマは終わって、つまらないニュース番組が始まっていた。テレビを消すとまぬけな自分の顔がそこにあった。これが私か。ブスだなぁ、とちょっと笑って、ちょっと落ち込んだ。それから昼寝をした。夢に誰かが出てきた——それが誰だったのかは、あんまり覚えていないのだけど。

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 しばらく文章を書いてないなぁと思ってリハビリ。なんかちゃんと小説(的なもの)を書きたいなぁ、という思いがふつふつと沸いてきている。最近は角田光代のエッセイを読んでいる。文章が自然体ですき。
 今年の夏は、少なくとも去年の夏よりはエンジョイしてるなー、と。去年がマイナス無限大みたいなもんだったので、あれなのですが。


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